育児中の親指と手首の痛みの症例からドケルバン病を考察してみます。
症例報告: 40代女性(育児中)
症状:
1歳児育児中、2ヶ月前より、親指から腕にかけて痛みが続いている。左手が掌を広げると痛みがあり、広げられなくなる。(写真のように親指が曲がっている方が多い)また、子供の抱っこや何かを持とうとすると鋭い痛みが発症するようになる。抱っこすることが苦痛になり、手首にも違和感が出てくる。
写真:来院時の左手の状態
下写真 施術3回後の状態(手のひらが開き、抱っこも問題なくなる)
分析:
母指MP関節付近から親指付け根にかけて圧痛がある。手のひらを広げても、深く曲げても痛みがMP関節付近に存在する。手首も違和感があり、テーブルなどに手を着く動作も痛みがある。
検査として、『ファンケルシュタインテスト(下記参照)を行う。母指から手首にかけて、腫脹や圧痛があり、母指を他の指で包み込み、そのまま小指側に曲げると痛みが増強することで陽性と判断する。
施術:
MP関節の負担を軽減するために、短母指屈筋nのリリースを行い、手根骨から手首(橈骨と尺骨遠位端)のアライメントを整える矯正を行う。その後、親指から手首にかけてテーピングを行い。また、抱っこや物を持つ時に、短母指屈筋を使わずに長母指屈筋を使う使い方をお伝えする。
3回目の施術後には症状は改善し、施術後写真のように手のひらを開くことが可能になる。また赤ちゃん抱っこも痛みなくできるようになる。
考察:
ドケルバン病の発症メカニズム
昔からホルモンの影響で産後の女性に多いとされる「ドケルバン病」ですが、最近では、パソコンなどの電子端末の使い過ぎで発症するケースも珍しくありません。
このドケルバン病は親指を伸ばす筋である、短母指伸筋腱と長母指外転筋が手首の背側にあるトンネル(腱鞘)で起こる腱鞘炎です。
このトンネルの中を通過する腱に炎症が起こった状態で、腱の動きがスムーズでなくなり、手首の母指側から手首かけてが痛み、腫れる場合もあります。母指や手首を広げたり、動かしたりするとこの場所に強い疼痛が走ります。
原因としては、主にこれら二つの腱を使いすぎたことにより生じます。子供を抱っこする機会が増える出産後の女性や更年期の女性にも多く見受けられます。
また、最近ではパソコンのキーボード操作やマウス操作、そしてスマホを使う方にも多く発症する傾向のようです。
病態としては、母指の使いすぎによる負荷のため、腱が肥厚したり、腱の表面が傷んだりして、トンネルである腱鞘を通りにくくしらにそれが刺激し、悪循環が生じると考えられています。
評価法は、親指や手首にかけて腫脹や圧痛があり、母指を他の指で包み込み、そのまま小指側に曲げると痛みが増強することで陽性とします。
(下写真:フィンケルシュタインテスト)
では、なぜ、この障害が起きる人と起きない人がいるのでしょうか?私の研究では、このドケルバン病は、指を屈曲して使う時に関節を伸展させて使うからだと考えています。その結果、あまり親指を使わない人でも生じることがあるのです。例えば、子供を抱っこする時に親指を屈曲して使えば(長母指屈筋)、この腱に負荷はかかりません。しかし親指の指先ではなく付け根を使う(短母指屈筋)と親指は伸展位にあります。結果、伸筋群に負荷がかかっている可能性があります。
この使い方の習慣がドバルゲン病の正体であると考えます。
また、手首の不安定性は、この時の橈骨と尺骨の間が乖離することも一因と考えます。
この障害の治療ですが、これらのメカニズムを考慮に入れ、伸展筋に負荷がかからないように親指の関節を正しい配列にすることにより治癒へ導かれると考えます。
文責:木津直昭