CM関節障害における大菱形骨(手根骨)の重要な役割

大菱形骨は手にある手根骨の一つであります。この骨は、五角柱形の骨である。前後面は関節と関係しないが、五角柱の4辺は、それぞれ舟状骨、小菱形骨、第二中手骨及び、第一中手骨底(親指の根元)と関節しています。

  

この大菱形骨と関節する、手の第一中手骨(親指)、この関節がCM関節と言います。この関節は、日常の生活で頻繁に使用します。結果、その関節に痛みを覚える方が少なくないのです。但し、このCM関節障害は、使い過ぎだけではないことがわかっています。

そこで今回は、CM関節の機能解剖と臨床経験からこの障害の発症メカニズムを考察してみます。

CM関節は、馬の鞍(大菱形骨)に人(親指中手骨)がまたがっているような構造で、靭帯が二つをつなぐ手綱の役割をしています。この構造が、親指の自由な動きを可能としています。大きく動かせる分、負担がかかりやすく、かつズレやすい関節なので、結果障害に繋がりやすいのです。

長年の使い方から靭帯がゆるんでくると、関節が不安定になり、ずれてくる可能性があります(亜脱臼)。また、軟骨が徐々にすり減ったり、関節を安定させようとして骨に棘(トゲ)が出来てきます。(骨棘)。これが母指CM関節症のメカニズムだと思います。

進行するとこの付近が腫れたように見え、母指が開きにくく動かすと痛みが出現します。また母指の指先の関節が曲がり、手前の関節が反った「白鳥の首」変形を呈してきます。この時には、親指と人差し指で丸を作った時に、正しい円が作れない状態になります。このメカニズムの中で、私が着目しているのが、このCM関節の構造と長年の使い方からくる関節の不安定です。(亜脱臼の可能性も)

 例えば、下イラストのように親指を曲げる時(屈曲)母指は大菱形骨に対して内旋しながら橈側側副靭帯を伸長させ、前斜靭帯は緩む、親指を伸ばす時(伸展)はわずかな外旋を伴い、前斜靭帯を伸長させ、橈側側副靭帯は緩む。仮にこの大菱形骨にズレがあるとしたらこの母指の動きは制限され痛みや不具合の原因になる可能性があるのです。

この状態で以下にあるような日常で作業で母指CM関節には、激しい痛みや関節可動域(開きにくい)などの不具合が生じます。

  • ペットボトルのキャップを開ける時。
  • マウスを使用してる時。
  • シャツのボタンをする時。
  • 洗濯バサミや爪切りをつまむ時。
  • ビンのフタを開ける時。
  • 手をついた時。

等、指や手を使う動作で痛みが出やすいです。

母指CM関節症の症状は、よく使う手でない反対手に出ることも珍しくありません。
『右利きなのに、なぜで左が痛いのですか?』と不思議に思われる方も多いかと思いますがそれが使い過ぎだけが原因でなく使い方に原因があると推測されるのです。

ここで区別すべきなのは

■使いすぎによる障害(変形、骨棘、炎症など)

■使い方による障害(関節の機能障害)

■ドケルバン病との鑑別

このCM関節障害で来院された患者さんはレントゲン検査では異常なしと診断され冷湿布を処方されたが、手を使えば痛みが続き日常生活に支障を来たし来院するケースが多いのです。これらの患者さんに大菱形骨を第一中手骨に対して関節の位置異常を改善させることにより関節可動域と痛みの消失に繋がるケースは多く見受けられます。このCM関節の変形や炎症自体が、この関節下におけるアライメントの崩れということも考えられ、今後のこの発症メカニズムをより研究していきたいと思っています。

文責:木津直昭

参考図書&イラスト引用:筋骨格系のキネシオロジー(アンドリュー,ポール・D.)医歯薬出版