No.177 高齢者の坐骨神経痛 77歳 男性(アメリカ人) 医師

症状

2年前から右下肢痛があり整形外科に通院中である。2週間前に階段を踏み外し右足を強く地面に着いた時から痛みが増し、2日間歩行困難になる。その後、歩くことは可能になったが、整形外科で鎮痛剤投与と鍼を行うが効果なく、整形外科医からの紹介で来院する。

分析

主訴は右臀部から下肢にかけての坐骨神経痛である。歩行、座位、立位で痛みが増す、静かに寝ていれば大丈夫であるが寝返りで鋭い痛みが走ることもある。整形外科では画像診断により軽度の変形性脊椎症と椎間板の変性が認められる。また腰椎4番の前方へのすべり症と腰椎4-5番間の狭窄がある。 初回、歩行検査では、痛みの為右足をかばうように歩く、ROM検査では屈曲、伸展、右側屈、全てで右臀部痛再現され、SLRテストは45度付近で腰部に痛み有り、特に下肢内旋挙上で痛み増強。腰椎4番付近と臀部梨状筋・中殿筋に圧痛有り。下肢全体に知覚鈍麻、特に右後大腿部に痺れ。L4~S1筋力テストは陰性。筋肉組織は、梨状筋、中殿筋、腸腰筋、腰方形筋に緊張あり。Treddelenberg Test陰性。

施術

検査結果より医学的所見として椎間関節症と梨状筋症候群を併せ持つ症状であり、かつ腰椎すべり症による脊柱管狭窄のリスクがある状態と判断。 カイロプラクティック的所見としては骨盤アーチの崩れにより右腸骨が前傾し、腸腰筋の拘縮を招いた。 結果、腰部筋群は防御的緊張が起こった為に腰椎を過前彎にさせ椎間関節に負担をかけたようである。身体全体の重心軸が右外側に移行した為に中殿筋や梨状筋に筋スパズムを発生させ坐骨神経痛が起きた状態と判断する。以上を考慮に入れ慎重に治療開始する。 初回は、上記メカニズムと治療プラン(日本滞在期間が2週間なので集中治療を行う)について説明し治療に入る。はじめに中殿筋と腸腰筋の拘縮を取り除き、右腸骨の前傾を正すことに主眼を置く。また歩行時の身体の使い方に関して指導する。 5回の治療により VAS1-2/10 に改善し歩行も楽になる。症状の改善に伴い、骨盤アーチを再生させる筋力トレーニングとバランストレーニングを指導する。主に腹横筋と骨盤底筋群の強化と歩行メカニズムの修正を行う。9回の治療で VAS 0.5/10 に良化する。最後に帰国後の在宅ケアと日常生活動作について指導行う。 高齢者の治療では、認識評価、機能的評価、身体評価(歩行とバランス評価)、栄養評価、薬物使用評価等の包括的な評価が重要になります。中でもカイロプラクティックアプローチにおいては、身体評価である歩行とバランスについては特に注意が必要です。また筋力トレーニングの仕方も、出来るだけリスクをなくし、在宅ケアでは、間違いにくい簡単に出来るものを指導する必要があります。