めまいに対するカイロプラクティック・マネジメント
めまいはカイロプラクティックの臨床においてよく見られる愁訴の1つであり、既往歴または随伴症状としてめまいを訴える患者は少なくない。しかしめまいには大きな全身性疾患の一兆候として発症する場合もある。めまいの原因は大きく3つに分類される:1.メニエール病や後迷路疾患などの末梢性めまい。2.脳・小脳疾患や神経変性疾患などの中枢性めまい。3.起立性調節障害や痙性めまいはその他と分類されている。われわれはこれらを適切に評価し、適切な医療機関を紹介することがカイロプラクターとして重要なことである。ここでは頸椎性めまいを訴える患者の1症例を挙げ、カイロプラクティック療法の効果を報告する。
症例ケース:椎骨脳底動脈循環不全(VBI)性のめまいに対する治療
現病歴
27歳外胚葉型女性が回転性めまいを訴えて来院した。患者が現在のようなめまいを始めて感じたのは17歳の時で、1年に数回起こっていたが、数日間継続するものではなかった。当時大学病院で耳鼻科の診察を受けメニエールと診断を受け、薬を処方され、その薬を1年ほど服用しましたがあまり効果がなかった。めまいが悪化したのはここ2ヶ月のことで、ほぼ毎日感じていた。このめまいは姿勢変化に関わらず起こり、常に外界が右に回っているように感じていた。特に思い当たる原因もなく、本人は低血圧が原因ではないかと思っている。再度耳鼻科、眼科などで様々な検査を受けたが、視力、聴力、前庭器官などには特に異常所見は見られず、頸椎症(頸部痛、肩こりなど)からの椎骨脳底動脈循環不全(VBI)性のめまいと診断された。また脳神経外科でMRIによる画像診断が行われたが、そこでも特に異常所見は認められなかった。再度薬が処方されたが、症状の改善は一時的なものであった。患者は来院翌月(2001年8月)よりこの症状の為に休職する事になっていた。患者はこれ以外自覚症状として肩こりと片頭痛を訴えていた。当時患者は低血圧やめまいなど14種類の薬を服用していた。
理学検査
血圧90/60mmHg(昇圧剤服用)。椎骨脳底動脈不全テスト、頸動脈聴診、脳神経を含んだ神経学的検査では著明な所見は見られなかった。頸椎可動域(屈曲、伸展、側屈、回旋)は全て正常範囲内。ただ伸展と右側屈時に左頸胸部に痛みを訴えました。
姿勢検査では頸椎前弯が減少し、顎が前に出たストレートネック、また胸椎後弯も減少していた。静的触診では左後頚部筋と両側上部僧帽筋に過緊張と圧痛が確認できた。脊柱分節動的触診では第4/5頸椎椎間関節右回旋、第7頚椎/第1胸椎椎間関節右回旋、第1/2胸椎椎間関節左回旋が制限されていた。頸椎立位4方向からの平面X線では、全ての像において骨折、脱臼、奇形、骨および軟部組織病変は認められなかった。側面像において頸椎前弯が消失し、ストレートネック。頚椎弯曲角10°(正常値=35〜45°)、頚椎弯曲の深さはー5㎜(正常値=7〜17㎜)であった。これにより患者の頚椎弯曲は著しく減少していることが分かる。頚椎弯曲が減少することにより、頭部の位置が前方に移動し、それを支える後頸部筋群や頚椎椎間関節にかかる負荷が正常よりも数倍増加することが考えられる。
治療
後頚部筋群と上部僧帽筋の筋緊張緩和と圧痛減少を目的としたストレッチング。後頚部筋群強化と頚椎前弯形成を目的とした運動指導。頚椎を中心とした分節機能不全の改善を目的とした、高速低振幅のスラストを用いたカイロプラクティックアジャストメントを行った。
結果
1週間後2度目の来院時には、主訴であるめまいは起こらなかった。その後2週間に1度の治療を3回、3週間に1度の治療を4回、合計8回の治療を行った。4回の治療で患者が訴えていためまいが日常生活ではほぼ感じられなくなった。そして8回目の治療時にめまいは完全に改善され、客観的にも頚椎分節の可動性が増加を示したため、問題解決とした。しかし両側の上部僧帽筋の緊張が完全な改善を示さなかったのは患者が感じている肩こりに原因があると思われる。患者は初診から2カ月後、職場へ復帰した。現在も再発防止と肩こりのため不定期に治療を継続している。現在も日常生活に支障を来すようなめまいは再発していない。
来院から1年6カ月後に撮影された平面X線画像では、頚椎弯曲角30°、頚椎弯曲の深さ5㎜と変化し、 以下画像のように大きな改善が見られた。
考察
Fits-Ritsonは頚性めまいには3つメカニズムを見直し、報告している。1そのメカニズムとは1.頸部交感神経への刺激:頸部外傷などにより頸部交感神経が異常に刺激され起こるめまい、2.頸部反射の異常:頸部の筋肉、靱帯、関節包の固有受容器の異常なインパルスにより生ずるめまい、Wykeは末梢の機械受容器、固有受容器、侵害受容器への刺激によって脊髄反射経路を調節すると報告している。このことは関節固有受容器や筋固有受容器を調節する効果のあるカイロプラクティック療法は大きな意義があると考えられる。3.骨動脈への機械的刺激あるいは圧迫:椎骨脳底動脈循環が阻害されることによって生じるめまい。
この中で一部明らかに椎骨脳底動脈循環不全の徴候を示す状況下に於いてはマニピュレーションの禁忌となり、適切な鑑別診断を必要とするが、それ以外のメカニズムに対してはカイロプラクティックマニピュレーションの有効性が伝統的に説明されている。
めまいの評価とカイロプラクティク治療の効果を報告した同氏の研究1では、頸部に障害を受けた後、めまいに苦しむ112人の患者において、101人(90.2%)が18回のカイロプラクティク治療で徴候がなくなり、そのうち73人(65.2%)に上部頚椎椎間関節に運動制限が確認された。またその中の53人(96.4)は9回の治療で徴候が消失したと報告している。またこの裏付けとして同氏は上部頚椎椎間関節と筋肉からの感覚情報を受け取るC2脊髄神経節が脊髄と外眼筋と密接な関係を持つ脳幹核と直接的な結び付きを実証した。これにより頚椎周囲組織からめまいを引き起こされるという仮設をうち立てた。このことからも関節固受容器、筋受容器や自律神経を調節する効果も持つカイロプラクティックマニピュレーションの意義は大きいと言える。
医師からの紹介を受けた14例のめまいを訴える患者に対するカイロプラクティク療法の効果をまとめた中塚氏の報告2では、改善を示したのが10例(71.4%)、改善が見られなかったのが2例(16.6%)、変化を示さなかったのが0例(0%)であった。また2症例において治療が中断された。またX線所見でもストレートネック5例、頚椎前弯減少5例、退行性変性6例と頸椎生理的弯曲による力学的変化が頸性めまいの原因になることを示唆している。本症例でにおいても、症状改善と伴に頸椎前弯の大きな変化が見られる。
まとめ
今回の症例では短期及び長期間の継続治療により主観的、客観的な改善が見られた。また短期間で患者が職場復帰できた意義は大きい。カイロプラクティック哲学に基づき、患者が抱える痛みや機能障害を取り除くばかりでなく、高いQuality of Life (QOL)を維持することもわれわれが果たさなければならない義務である。
痙性めまいに関してFits-Ritsonは独特な評価法1を報告しているが、画一した評価法はまだない。またその治療法についてもさまざまな報告3-5されているが、今後多くの症例報告と共に科学的研究により、痙性めまいに対する評価法が画一され、カイロプラクティックマネジメントの有効性が正式に認められることを期待したい。
KIZUカイロプラクティック テクニカルマネージャー
五十嵐 由樹
参考文献
- Fitz-Ritson D. Assessment of Cervicogenic Vertigo. J Manipulative Physiol Ther 1991;14:3:193-198
- 中塚祐文 めまいに対するカイロプラクティック療法、マニピュレーション 1994;9:4、エンタプライズ
- Kessinger R.C.,Boneva D.V., Vertigo,Tinnitus, and Hearing Loss in the Geriatric Patient, J Manipulative Physiol Ther 2000;23:5:352-362
- Bracher.E.S.B., Almeida C.I.R.,Almeida.R.R.,Duprat A.C.,Bracher C.B.B., J Manipulative Physiol Ther 2000;23:2:96-100
- Chapman-Smith D.,竹谷内一愿訳、カイロプラクティックレポート めまい、マニピュレーション 1993;8:4、エンタプライズ