No.182 妊婦さんの股関節の痛み 32才 女性 主婦(妊娠中)

症状

左股関節(鼡径部)の痛みを訴えて来院。現在妊娠8ヶ月。2ヶ月前より違和感はあったが、2日前から急激に悪化した。 悪化した原因は思いつかない。鋭い痛みが歩行時や階段の昇り、胎動でも出現する。一瞬の鋭痛だが、思わず股関節から力が抜けてよろめいてしまう。 妊娠中のため転倒だけは防ぎたいとのこと。産科での定期健診では母子ともに順調といわれた。左股関節の症状を医師に訴えたところ、坐骨神経痛といわれ胎児に影響の少ない漢方薬を処方された。しかし、あまり効果がみられなかった。

分析

初回検査時、受付から治療室まで、痛みのために跛行(左足を引きずる)がみられた。歩行分析をしたころ、左下肢に内旋位(つま先が内側をむいている)が確認された。また、彼女の靴を調べたところ左の靴底にも同様の減り方がみられ、おそらく今回の症状が出現する以前から、このような歩き方の癖があったと思われた。仰向けでも、左足のつま先が右足よりも内側を向いていた。痛みの部位を触診したところ、腸腰筋の圧痛と筋肉の緊張が確認された。また、同筋の筋力低下と筋力発揮時における痛みの再現もみられた。関連する部位として、左側の骨盤と腰椎、股関節にも関節機能障害が確認された。

施術

妊娠は病気ではありません。女性の体は妊娠の急激な変化をしっかり受け止められるようにできています。しかし、彼女の体は妊娠前から既にあった問題のため、その変化についていけなかったのです。痛みの原因となった腸腰筋とは、腰椎を保持するための筋肉です。妊娠によって腹部が大きくなってくると、腰にはより強い保持の力が必要となります。ダメージのある筋肉では妊娠6ヶ月くらいからその許容レベルを超えてしまったのでしょう。腸腰筋は股関節に付着していますので、左足の内旋位は筋緊張のサインだったのです。
治療は妊娠8ヶ月ということを考慮して、腹部と骨盤に負担がかからないようなアプローチを選択しました。 腸腰筋の緊張を取るとともに筋力の正常化、股関節の機能回復を促し、加えて歩行時の指導を行いました。 2回目、3回目の治療で痛みの頻度が減るようになり、4回目の治療を境に痛みが消失しました。しかし、以前よりは良いものの腸腰筋の緊張や股関節の問題は残っていました。これは回復の状態が痛みの許容レベルに入っただけであり、再び痛みが表在化しないよう出産予定日の1週間前まで治療を継続しました。その後、無事に元気な女の子を出産したとの連絡がありました。