『防御的緊張による慢性痛とストレートネック根本施術』について

以下の症例ケースから、『防御的緊張による痛みとストレートネック根本施術』についての自分なりの考えを述べてみます。

症例ケース:慢性的な首から肩、胸の痛み(35才女性)

2年前から首から肩甲骨付近の不調が発生し、徐々にその状態が悪化し来院する。シンガポールに住んでいた時に発症する。その時に前屈みの姿勢で長時間PC操作を行っていたのが始まりであった。その後、日本に帰国して整形外科など10箇所以上の医療機関で検査・治療行うが改善せず、痛みも複雑になり睡眠も阻害される状態になっている。

 最近整体を受けた時に、背中を強くマッサージされ、痛みが増強する。その後、MRI検査を受けた整形外科では、肩甲骨付近の筋群の肉離れを指摘される。また最後に診察受けた大学病院では、ストレートネックとの診断とブロック注射を勧められている。(ブロック注射は、他の医療機関でも何度か受けていているが効果はなかった。)PC姿勢などの環境も気をつけているが、辛い継続する痛みに藁をも掴む気持ちで来院される。

 検査を行うと、頚椎可動域は、右回旋が45度で痛みが発生するため、その前段階までしか動かさなくなっている。左回旋は正常。右側屈・後屈では痛み増強。痛みは首から肩甲骨にかけて広がる。また、胸を開こうとすると胸から肩にかけて抜けそうな痛みが起こる。
検査中に見られた特徴的な動きとして、首を右回旋する時に、痛みがあるので、首から肩で右に回旋させようとしているようである。このような痛みを回避するような動き(カラダの使い方)は、急性の寝違えのような症状ではしばしば見られる。また、全身の検査では、左半身に重心軸があり左腰部から背部にかけての筋群に過緊張がある。
頚椎のモーションパルペーションでは、上部頚椎が右側方に動揺した状態であった。(環椎が右側方変位、軸椎は、右回旋変位)が原因である。この動揺性によって起きた頚椎アライメントの崩れは、鎖骨や肩甲骨に付着する筋群の防御的な緊張を起こします。

頚椎回旋の正常な動きを解剖学的に見てみると
左右にそれぞれ、80~90度、合計で180度近く回旋できます。眼球水平運動(150~160度)を含めれば、360度近くの視野があることになります。
環椎後頭関節(後頭骨と環椎の関節)ほぼ無し
環軸関節(環椎と軸椎の関節)40~45度(合計85~90度)
C2~C7(上位ほど大きい)45度 (合計90度)

上イラストを見てください。 頚椎の回旋運動を示しています。このイラストは、右に向いた時です。この頚椎の真ん中の空洞(脊柱管)には、脊髄を通しています。脊髄を守るために頚椎のアライメントが横にずれたり頚椎軸が崩れるのは、身体は守らなくてはならないのです。結果、防御的な過緊張が生まれているのです。だからこそ、この防御的な緊張は自然な形で取り除くことが重要なのです。それがカイロプラクティックで行っている矯正なのです。 これが、今回の患者の右に向けないなどの障害に繋がるし、この状態が長期化すれば重篤な障害の原因になる可能性が高いのです。

  上記画像(頭が地球儀)をご覧ください。頭(5-6キロはあると言われています)の位置が左に傾くことにより、右頚椎一番は外側に動揺しやすくなります。今回のケースでは、右頚椎1番に右側方への動揺性と右頚椎2番に右回旋があり頚椎軸が崩れた状態になっていたのです。右向く時(右回旋)に頚椎全体に正常な滑り運動(軸運動)を起こさせるために頚椎1番を中心に戻すための矯正と運動療法を行いました。

 結果、右回旋時に頚椎軸が守られたので、防御的緊張は必要なくなり、痛みもなく、正しい頚椎軸で回旋でき、症状は改善したのです。また、胸鎖乳突筋の過緊張もこの頚椎軸を狂わせる一因になっています。この女性もストレートネックが強いために、左胸鎖乳突筋が短縮し、より頚椎1番の側方変位を治りにくくさせていました。また、身体全体の左軸は、学生時代に行ってきたバトミントンでのプレースタイルが影響していた可能性もあり。この身体全体の連鎖を整えることも頚椎軸を安定させるには重要です。

考察:今回の頚椎の異常は、近年では珍しくない状態でもある。この頚椎の回旋運動ですが、頚椎の生理的なカーブが前提での可動域になります。近年増加している『ストレートネック』ではこの生理的な前へのカーブが消失した状態になりますので、この正常な回旋運動自体行えないことになります。結果、周囲の筋群に防御的な緊張を作り、正しいアライメントでの頚椎回旋ができていないことが考えられますので様々な障害の原因になるのが当然と言えるかもしれません。これまで行ってきた治療方針が、この防御的緊張を取り除こうとしたアプローチが結果、このような慢性的でかつ複雑で治りにく障害に移行していたと考えられます。

*この頚椎への検査や分析、そして施術までの特殊なアプローチはカイロプラクターの得意とするところなのです。

 

文責:木津直昭

参考図書:筋骨格系のキネシオロジー Donald A.Neumann (医歯薬出版株式会社)